―いねむり どくしょ―

毎日読んだ本の紹介と感想。気に入った本には★、とても気に入った本には★★をつけています。コメント・トラバはお気軽にどうぞ。
のんびり更新しております。
<< August 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
PROFILE
RECOMMEND
レインツリーの国 (新潮文庫)
レインツリーの国 (新潮文庫) (JUGEMレビュー »)
有川 浩
読了。すっごく楽しいひとときでした。伸とひとみの会話に悶絶。近いうちに感想書きたいな。
RECOMMEND
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) (JUGEMレビュー »)
カズオ・イシグロ
読了。昨年読んだ中では一番よかった作品。時間を見つけて感想書きます。
RECOMMEND
図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)
図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫) (JUGEMレビュー »)
有川 浩
読了。軽く読めて面白い。感想はちょっと時間かかるかも。
RECOMMEND
昨日は彼女も恋してた (メディアワークス文庫)
昨日は彼女も恋してた (メディアワークス文庫) (JUGEMレビュー »)
入間 人間
続編とあわせて読了。よくある恋愛小説かと思いきや、とんでもないどんでん返しでした。
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
MOBILE
qrcode
PR
 
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- | | - | - | - | - |
★オリエント急行殺人事件 (アガサ・クリスティ・安原和見/訳)

JUGEMテーマ:読書

 

アガサ・クリスティ不朽の名作。

イスタンブール発カレー行きの豪華列車「オリエント急行」の客室で、ある朝一人の客が死体となって発見されます。

折しも列車は大雪で立ち往生しており、しばらく警察の捜査は望めません。

そこで名探偵エルキュール・ポアロは殺人犯の推理に乗り出しますが、乗客たちには皆アリバイがあり、また列車の外から誰かが侵入することも困難な状況です。

さて、犯人は誰で、動機はいったい何だったのか? ポアロが導き出した答えは意外なものでした――。

 

 

今までにも多くの訳が出ており、また2017年には映画版も上映されましたが、この光文社古典新訳文庫版の特徴は下記の通りです。

  • しおりに登場人物一覧と客車の見取り図(本文中と同じもの)が掲載されていること
  • 本文中の注釈で、本書が発売された当時の文化や言葉に関する解説が充実していること
  • 訳者のあとがきで原書の「疑問点」(クリスティが執筆の際に間違ったと思われる箇所)がまとめられていること

特にしおりに載せられた登場人物一覧はとても便利で、登場人物の名前や特徴を忘れてしまっても、しおりを見れば前のページに戻ることなく続きを読み進められました。

海外小説は登場人物の名前が覚えられないからちょっと……と敬遠している方でも、本書は気軽に読めるのではと思います。

 

 

恥ずかしながら私は今回初めて本書を読んだので、他の版に比べて訳文がどうこうとか比較することはできませんが、翻訳っぽさがないとても読みやすい文章で、一気に読むことができました。

解説も設けられているので本当にわかりやすいのですが、でもやはり、頻繁に登場するフランス語とか、イギリス英語とアメリカ英語の違いとか、できることなら原書でも読んでみたいと思う箇所も沢山ありました。

さらにヨーロッパの文化や思想的な背景を多少でも知っていると、より深く理解できる箇所もあると思います。もちろん、知識ゼロでも楽しめますが。

 

結末も素敵です。同じクリスティ作の『そして誰もいなくなった』を読んだ時の衝撃を思い出しました(本作はあの時ほどではありませんでしたが)。

 

2017年公開の映画版(公式サイトはこちら)も、オリエント急行の空撮や豪華な車内の様子など、ふだんなかなか見られない映像をたっぷりと味わうことができてよかったです。ですがやはり、一度は小説で触れておきたい作品です。

★真昼なのに昏い部屋 (江國香織)
JUGEMテーマ:読書
 第5回中央公論文芸賞受賞作。不倫を扱った小説です。

美弥子さんは、都内の高級住宅街にある大きな家に暮らす、専業主婦。
「自分がきちんとしていると思えることが好き」で、毎日の日課――掃除や、夫の浩さんが脱ぎ散らかした衣服の片付けや、鉢植えに水をやること――に安心感と喜びを見出す女性です。
彼女は来客がある時でもお喋りしながら編み物や刺繍に精を出します。「何か」していることが好きなのです。

そんな美弥子さんは、近くに住むアメリカ人のジョーンズさんと出会い、ある日一緒にフィールドワーク(散歩)に出かけます。
その日から、ふたりはお互いを意識し合うようになり、やがて「きちんとした」美弥子さんの世界は少しずつ変わりはじめます。



最後の1ページに全てが込められていました。

本書はですます調だし、「美弥子さん」「ジョーンズさん」のように登場人物をさん付けで描いているし、物語の進行もはじめはごくゆっくりとしているので、
童話の世界のような、きらきらとしてどこか現実感のない時間が流れるのですが、
合間に挟まれる夫の浩さんとの会話や、美弥子さんの心理描写で、少しずつ現実に引き戻され、しまいに一気に激流に突き落とされました。
にくい演出です。

以下、好きな部分をいくつか列挙します。
私、世界の外へでちゃったんだわ。 (p.169)
「その、つまり僕は、ずっと以前から世界の外にでていますから」 (p.175)
「僕たちは似たもの同士ですね」
と、ジョーンズさんは言いました。
「事実に安心できる人間もいれば、事実に打ちのめされてしまう人間もいますから」 (p.184)
あっというまに転落してしまった。美弥子さんは思いました。
転落?
(中略)私は転落したのかしら。でも、どこから? (p.213)
どの文章もとても平易で、ふわふわとしているのに、本質を真正面からきちんと捉えています。
こんな文章が、きらきらした不倫世界の合間に挟まれているのです。その度にどきりとするわけです。
最近の江國香織さんの作品の中では、かなり好きかもしれません。


美弥子さんと浩さんの全くかみ合わないやり取りも、本書の魅力のひとつです。
ふたりが結婚に至ったまでの説明や、浩さんの心理描写はごく少ないのですが、
短い中に全てが込められていて、滑稽なまでに悲しい描写です。
浩さんと結婚して、美弥子さんは幸せだったのでしょうか。ジョーンズさんと出会うまで、彼女はすれ違うことが当たり前なのだと思っていました。
ですが世界の外に出てしまった今、美弥子さんは浩さんとの関係性にはじめて向き合うこととなります。
気づかない幸せと、気づく幸せ。果たしてどちらが幸せなのでしょうか。


籠の小鳥が可愛らしいのは籠の中にいるからです。
外に飛び出してしまった小鳥は、たちまちただの野鳥になってしまうのです。
読み終えてふと、そんなことを、思いました。
★桐島、部活やめるってよ (朝井リョウ)
JUGEMテーマ:読書
 第二十二回小説すばる新人賞受賞作。
作者はその後『何者』で直木賞を受賞しています。

県立高校バレー部のキャプテン・桐島が、ある日突然部活を辞めたという。理由は誰も知らない。
その日を境に、バレー部のメンバーや桐島と仲の良かった子たち、さらに同じ学年の桐島とは無関係だった面々にまで、小さなさざ波が起こって――。



映画版は観ていないので、純粋に小説の感想を。

物語のキーパーソンは桐島のはずなのに、本文中に彼は全く登場しない。なかなかニクイ構成です。
一つの高校を舞台にした長編小説ではありますが、桐島を取り巻く五人の高校生それぞれを章立てて追った、連作短編集でもあります。

どの章が、誰の話が、というより、全部の話が、痛い。
自分も高校生の頃、似たようなことを考えていたし、クラスに同じようなタイプの子がいたっけ――と、リアルにまざまざと思い出して、自分の経験と登場人物の心情を重ねて、苦しみながら読みました。

中学・高校の頃って、外見とか、運動神経の良さとか、何部に入っているかとかがとても重要で、
それによってクラスの中での立ち位置やグループも決まっていたように思います。

 自分は誰より「上」で、誰より「下」で、っていうのは、クラスに入った瞬間になぜだかわかる。僕は映画部に入ったとき、武文と「同じ」だと感じた。そして僕らはまとめて「下」なのだと、誰に言われるでもなく察した。 (p.91)

この部分なんかはまさに、全面的にその通りです。
大人になって学校生活を抜け出した今となっては、あの感覚は一体何だったんだろうと不思議だし、そんなことで決められたランクなんか本当は重要じゃなかったんだって思うけれど、
中高生だったあの頃は、自分がどの層に属しているかはとても大切なことでした。

私自身は下の方のランクにいた部類だったので、映画部の涼也の話がいちばん自分のことのように感じられました。
この文庫版には、涼也と関係のある、東原かすみの話も収録されているのですが、それがまたいい味を出しています。
中学時代の話ですが、他人の言動にすぐに影響されたり、ささいなことで友だちを仲間外れにしたり、「あるある!」と頷きたくなる話です。
涼也との話も、いい感じにまとめられています。


ランク付けという部分でひとつ難点を挙げれば、小説はあっさりした「上」と「下」だけのランク付けでしたが、本当はもっと複雑だと思います。
映画部とかブラバンあたりは「下」というより「中」ぐらいなんじゃないでしょうか。
本当はその下の立場もあったよなあ、と思うのは自分だけでしょうか。
何にせよ、大人になってしまえば意味のない分類ではありますが。



痛い感覚を痛いまま描いている、等身大の小説でした。
よくも悪くも話し言葉そのままで書かれていて、最初は違和感を感じましたが、心情描写としてはむしろこの書き方の方が合っているかもしれません。
作者が今後社会に出て、大人を主人公にした小説を書くことがあったら、どんな風に等身大に描くのか(あるいは全く違う視点で描くのか)、とても楽しみです。
同世代にオススメしたくなる一冊。
時をかける少女 (筒井康孝)
JUGEMテーマ:読書
 
言わずと知れた古典的名作。何度も映画化され、アニメや漫画にもなっています。
本書はそんな「時かけ」の他、2本の短編も収録された新装版です。

※以下、この作品に限らず、タイムトラベルに関する多くの小説・ゲームのジャンル・トリックに関するネタバレを含みます。注意。


「時をかける少女」

元は1965年〜1966年にかけて、中高生向けの雑誌に連載されていたということで、
いやはや50年程昔の作品です。50年!
文体や単語は少々古めかしいけれど、平易でわかりやすく、科学的理屈の説明もあっさりしています。
ジャンルとしては、タイム・リープとテレポーテーションのミックスですが、
淡い恋愛模様も描かれていて、SFの中でもかなり読みやすい作品ではないでしょうか。

名作と呼ばれる通り、SFのお手本、教科書のような作品でした。
高畑京一郎『タイム・リープ』や、谷川流『涼宮ハルヒ』シリーズなど、多くの作品に影響を与えた短編です。


悪夢の真相

ミステリ仕立ての、ちょっと怖い短編。
人が何かを怖がるのは必ず原因があるからだ、という前提のもとに、主人公の昌子は弟が夜中にトイレに行くのを怖がる理由や、自身が般若の面を怖がるわけを次々に解き明かしていきます。
やがて最大の謎、遠い昔の、おぼえていない事件に挑むことになるのですが――。

SFというよりはミステリです。
昌子が解決していくのは身の回りで起きる日常的な内容ですが、文一とのコンビがシャーロックホームズのようにうまく回っていて、安心して楽しめます。
現実もこんな風にうまくいくといいのですが、いやはや。


果てしなき多元宇宙

それはいつもの帰り道。暢子は一重まぶたに悩んだり、アイドルになりたいと思ってみたりする普通の高校生。気になる男の子もいて、今日はその彼と一緒に帰るところだが、他校の不良高校生にからまれて――。

題名通りの並行宇宙ものです。
といってもごく短い作品ですので、科学的解説は味付け程度。
入間人間の一連の小説(『19』の短編や『時間のおとしもの』、『昨日は彼女も〜』『明日は彼女も〜』)や、ゲームではCROSS✝CHANNEL、やなぎなぎの「凍る夢」などなど
挙げればきりがないこのジャンルの中でも、かなりあっさりとしていて、でもうまくまとまった作品だと思います。
論じれば長い長い原稿が書けてしまいそうなので、感想はこのくらいで。


3作品ともすぐに読み終えられて、しかも粒ぞろい。いい短編集に出会えました。
未読の方も久しぶりに再読したい方も、ぜひ。
クジラの彼 (有川浩)
有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング)
(2010-06-23)

JUGEMテーマ:読書
 「自衛隊ラブコメ」シリーズ第一弾となる短編集。
「自衛隊三部作」(『塩の街』・『空の中』・『海の底』)のうち、『空の中』と『海の底』のその後の短編も収録されています。
 
クジラの彼

潜水艦乗りの彼氏と、普通のOLをしている彼女の物語。『海の底』の番外編です。
『海の底』ではクールで計算ずくに見えた冬原が、彼女の前で見せる甘えた顔に、彼女の言動に動揺し翻弄される姿に、ニヤニヤが止まりませんでした。
あのちゃっかり者の冬原はどんな女の子を好きになるのだろうと思ったら、なるほど、言葉の感覚が決め手だったわけですね。
クジラは世界中の海を旅して、どこに潜っているかわからないけれど、
潜水艦をクジラと呼ぶ感覚も、クジラ乗りが陸に帰ってくる日を待つ恋愛も
どちらもとても素敵です。

ロールアウト

自衛隊の次世代輸送機開発をめぐる、トイレについての物語。
思いがけない設定ですが、なるほど飛行機乗りにとってトイレの快適さは重要なポイントではあるものの、設計時には軽視されがちな部分で、(この小説では)議論のネタになるわけです。
トイレに対する男女の感覚の差と、淡い恋愛模様とがうまいこと交差して、バランスの取れた小説です。

国防レンアイ

ちょっと気が強い女の子と、万年友達以上の微妙な関係を保っている同期の男の子。
自衛隊という特殊な環境が舞台ですが、内容はとてもありふれていて、生々しくて、共感しやすい短編でした。友達のコイバナを聞いているような、そんなノリの小説です。
最後の部分がぐっときます。特にいっとう最後の、伸下の台詞が。

有能な彼女

『海の底』の夏木と望の後日譚。結婚を切り出すまでの微妙な駆け引きがうまく描かれています。
真面目すぎるくらいにまっすぐな夏木の、温かで優しいまなざしと、
同じくらいまっすぐで強いけれど、ちゃんと女の子の望の想い。
ふたりの真剣なぶつかり合いは理想的すぎるくらいに完璧で、これ以上ない後日譚でした。

脱柵エレジー

駐屯地を夜中に抜け出して、恋人に会おうとする新隊員と、それを未然に防ごうとする先輩隊員。
けれど先輩隊員だって、かつては同じように悩み脱柵を試みたかもしれないわけで。
そんな二段構えの、青臭い短編です。
自分に酔い、相手に酔うだけの十代の恋愛と、青臭い記憶を乗り越えた先にある、少し大人の恋愛と。
たぶん誰もが同じような経験があるのではないかしら。少し痛いくらいの青春モノです。

ファイターパイロットの君

『空の中』の後日譚。おまけ小説という言葉が合いそうな、『空の中』の読者向けのごく短い物語です。
光稀と高巳は本当にいいカップルです。


全体を通して、少女漫画さながらの、女の子の夢がいっぱいつまったラブコメでした。
現実にはこんな台詞言ってくれる人はいないぞ! とつっこみつつも、
顔が緩みっ放し、悶絶しっ放しで、息も絶え絶えにあっという間に読み終えました。
読み終えて間違いなく幸せな気分になれる小説です。
伏 贋作・里見八犬伝 (桜庭一樹)
JUGEMテーマ:読書
 2012年10月20日公開映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」、原作小説。
漁師の少女・浜路は兄の誘いで江戸に移り住む。当時、江戸には「伏」と呼ばれる者たちが跳梁跋扈していた。「伏」とは、姿かたちは人間なのだが、体に犬の血が流れる者たちだ。
浜路と兄は伏を狩る賞金稼ぎとして、夜な夜な江戸中を駈け回る。
人間と伏、狩るものと狩られるもの、光と影の因果の物語。


作者の最近の作風とはガラリと違う、ライトノベルのレーベルで出していた頃のような文体に驚きました。
軽くてわかりやすくて作品に合っているけれど、あっさりしていて深みがないし、ちょっと薄っぺらい文体です。
作品そのものもエンターテインメントに徹している感じで、なるほどこれならば映画として楽しめるだろうなと思わせる内容でした。
江戸が舞台ですが、どこまでも現代的というか、登場人物の口調も町並みの描写もとても現代的です。

贋作・里見八犬伝と銘打ってはいますが、内容は全く違うしどこまでもライトなので、恐らく原作の南総里見八犬伝ファンは驚くのではと思います。
登場人物の名前や設定の一部を借りて、全然違うテイストの作品に仕上げている感じです。
そういう意味では、原作が好きな方にはおススメしづらい小説です。
逆に割り切って読める方や原作を知らない方なら、エンターテインメントとして楽しめると思います。


捕物劇のドタバタも面白いのですが、それよりも登場人物同士の因と果をめぐるやり取りも読みごたえがありました。殊に、ちっちゃな漁師の浜路と信乃の淡い感情のすれ違いや、伏たちが安房の森に旅をするくだりはなかなか味があります。
それから個人的に好きなのは、滝沢冥土です。滝沢馬琴の息子として、父の書く「南総里見八犬伝」の贋作小説を夜な夜な書き綴り、また浜路らをこっそり尾行しては捕物劇を瓦版にして売りさばく。面白い設定です。
滝沢馬琴が原作小説を書き、それを下敷きに冥土が贋作を書き、さらに作者の桜庭一樹が物語世界の外側から大きな贋作小説としてまとめている。三重構造になっているというのがまた面白い設定です。
ですが、設定もテーマもいいのに、全体として長さはあるのに軽いまとめ方をしているので、せっかくの因と果という大きなテーマが薄くなってしまっていて、少し勿体ないと思いました。
もっとキャラクターを掘り下げてもよかったのではないでしょうか。
一冊で終わらせずにシリーズ化してもよいくらいの設定なのに、本当に勿体ないです。


気楽に読めるので、原作を知らない方はこの作品をきっかけに、ぜひ曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』も読んでみてもいいのでは。
映画版と小説版を比べるのもまた楽しそうです(何やら設定が違うようですし)。
終末のフール (伊坂幸太郎)
JUGEMテーマ:読書
 あと三年で小惑星が衝突し、地球は滅亡する。
それが確定的な未来になった時代の、仙台北部の団地「ヒルズタウン」。
地球滅亡がはじめて予告されてから五年経ち、当初のパニックや暴動も治まり、街は小康状態にある。
この先滅亡が近づけば、再び暴動も起きるだろう。
それまでのほんの少しの静かな時間、割合穏やかな街に暮らす人々についての短編集。


小惑星の衝突により地球は滅亡する。
SF的な設定ですが、本書で描かれているのはあくまで、死が迫った世界で生きる人間の姿です。
解説にも書かれていることですが、普段、何となく生きている私達の「生」は、「死」が目の前に迫ることではじめて逆説的に「生」が現れ、光り出す。

とはいえ、光り出した「生」は必ずしも美しいとは限らず、
以前より落ち着いたとはいえ、街には強盗、殺人、誘拐があふれ、
また一方では数年後の滅亡を前にして、心中や自殺を企てる者もいる。
穏やかに過ごす者もいれば、死ぬ前に何かを為したいともがく者もいる。
こうして短編で描かれた幾通りもの行き方を改めて振り返ると、なぁんだ、どれも普段私達の世界によくある生き方じゃないかと思います。
滅亡するからといって、何かが大きく変わるはずもなく、
私達はそれぞれの「生」を全うするより他はないのです。

ヒルズタウンの人たちは何となく生きていた「生」を正面から考えなくてはいけなくなったけれど、
何も小惑星が衝突しなくたって、私達は災害や事故や病気や様々の人間関係など、
自分の人生に正面から向き合うことは何度も経験しているのではないでしょうか。


こうしてつらつら書くと何やら小難しい小説のように感じられるかもしれませんが、この作品はあくまでエンタメ小説。
仕事や勉強に疲れた時、息抜きにふっと手に取る。そんな感じがいいんじゃないかと思います。
短編全てが同じ街を舞台にしているので、各話が微妙につながっていてにやりとできますよ。
ブルースカイ (桜庭一樹)
JUGEMテーマ:読書
 2005年にハヤカワ文庫JAから刊行されたものに解説を加えた新装版。
私の読んだこの黒地に青文字のバージョンは2011年に出た新装版ですが、
他に2012年に文春文庫からも新装版が出版されているようです。
3バージョンとも本文に変わりはないので、解説の有無やカバーなど、お好みで。

ハヤカワから出ているし、ジャンルに分類するならSFになるのでしょうか。
とはいっても、科学理論で攻めるいかにもなSF作品ではなく、世界観がSFっぽい、という程度です。
3部構成で、それぞれ主人公や世界が全く異なります。
解説からの引用ですが、「3つの箱庭と3つの青空、そして1人の少女についての物語」です。
第1部は1627年、魔女狩りの行われるドイツはレンスの町。
第2部は2022年、シンガポールの未来都市。
第3部は2007年、桜島の噴火が断続的に続く鹿児島。
それぞれの舞台が実はひとつにつながっていて、その鍵を握るのが1人の少女で。
タイムトラベルもの、というか、タイムトラベルっぽい感じの、作者らしい「少女を描いた物語」です。



一冊で完結させるには勿体ないと思いました。
3部それぞれ世界観も主人公も文体も違っていて、全部がそれぞれ面白く読めるのに、どの話も中途半端に終わっていて、圧倒的に分量が足りません。
特に第1部。中世ドイツの町に魔女狩りが迫ってきて、謎の秘密結社が魔術を使ってそれに対抗する。
幼い少女が主人公ということもあり、暗さ、恐ろしさが前面に出ていて、雰囲気のある物語に引き込まれとてもとても面白く読み進めていたのに、
結局たくさんの謎が解決されないまま、話は尻切れとんぼに第2部に移ってしまいます。
第2部は第1部とのつながりを匂わせつつ、結局どこがどうつながっているのか把握できぬうちにあっという間に進んでしまい、とても短い第3部へとなだれ込む。
そのまま第3部の主人公がこの小説全体について自分語りに語って、ジ・エンド。
うーん勿体ない!!
3部それぞれが長編小説になり得たし、この構成にするならいっそ上中下の3冊ぐらいにした方がよかったのではないでしょうか。
それ以前に、無理やりSFっぽい展開にしなくても、特に第1部の魔女狩りが行われる中世の町の話なんて、それだけで十分面白いのに。
勿体ないです。

作者が好きなら、ライトノベルで出していた頃の軽いテイストの作品から、最近の作品への過渡期に書かれた小説として、作者の文体や描写方法の変化を楽しめると思います。
これから桜庭一樹作品を読むなら、この本から読むのはオススメし辛いです。
そんな一冊。うーん本当に惜しい!
宵山万華鏡 (森見登美彦)
JUGEMテーマ:読書
 祇園祭宵山の一日をテーマにした、連作短編集。
六本の短編は全て「宵山〜」で始まるタイトル。それぞれの扉絵やカバーのイラストは、いかにも森見ワールドといった感じで、怪しげで不思議で怪異ででもちょっとあたたかい。


いつもの森見ワールドなんだけど、なんだかちょっと違う、そんな短編集でした。

まず文体が違う。
相変わらずうまいんだけど、いつもと違ってそつないというか、ぐいぐい引きこまれていくような感じが少なく感じました。
『夜は短し〜』や『四畳半〜』などでは、どうしてこんな単語がするする出てくるんだと言いたくなるような、ちょっと古めかしい単語が文中にちりばめられていて、それがこの作者さんの魅力の一つだと思ったのですが、今作ではそれが全く影を潜めてしまい、終始平易な言葉の羅列が続くのが残念でした。

そして内容。
こちらの短編では主人公だった人物が、別の短編ではただの通行人になっていて――というようなカラクリは短編連作ならではで、六作とも話が少しずつ繋がって絡み合っているので続きを読むのが楽しく、ニヤリとできる部分も多くありました。
が、最後まで読んでもすっきりしないのが個人的には少し残念でした。
完全な私の嗜好にすぎませんが、たとえ短編であっても、連作である以上、長編と同じようにひとつの世界のカラクリが明らかになった方が、読み終わった時にすっきりできると思うのです。
それが今作では、謎は謎のまま、余韻を楽しんで終わる風だったので、拍子抜けした次第です。
とはいえ、謎を全て解ききらずに終わるというのは、小説に限らずゲームなどでも最近よくある描き方のようなので、これはこれでいいのかもしれません。


散々な書き方をしましたが、それでも並の短編集などよりずっとずっと面白いし、相変わらずの森見ワールドは健在です。
祇園祭の季節などに読むとまた格別かもしれません。
愚者のエンドロール (米澤穂信)
米澤 穂信
角川書店(角川グループパブリッシング)
(2002-07-31)

JUGEMテーマ:読書
 『氷菓』シリーズ第2弾。
文化祭に出展するはずだった、クラス有志制作のビデオ映画。ところがミステリーなのに肝心の結末が明かされぬままビデオは終わっていた。
依頼を受けた奉太郎たち古典部のメンバーは、ビデオ映画の結末を推理することができるのか?!



前回とは違い、ミステリー色の強い一冊。
とはいえ、殺人事件は発生すれどあくまで映画の中の話。前巻同様、古典部の日常そのものはまったりと進みます。
推理役はビデオ映画製作に関わった三人と、奉太郎。奉太郎は持ち前の洞察力を発揮するわけですが、やはり古典部の面々あってのこと。一人では話が進まないのが、このシリーズのいいところです。

古典部のメンバー四人の個性もさらに出てくる中、奉太郎の変わりっぷりには驚きました。
やらなくてもいいものはやらない、という省エネ主義の奉太郎が、やらなくてもいいはずの謎解きに少しずつ関わっていく。
個性的なメンバーやお姉さんらに囲まれて、今後どこまで彼が変わっていくのかとても楽しみです。


そうそう、今作は一筋縄にはいかない素敵な謎解きもできました。
ビデオ映画を鑑賞しての、殺人事件の謎。
今作で新しく登場する先輩の思惑。
冒頭などに示されるチャットは誰の会話か。
前巻よりさらに地の文が工夫されていて、最後まで読み終えてから冒頭部分を再読してみると新しい発見もありました。
何度でも読み返せるいいシリーズです。
前作では文章が少し拙いことを指摘しましたが、今回は私は気になりませんでした。
ミステリーらしくてミステリーらしくない、とても素敵な一冊です。

(C) 2019 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.