―いねむり どくしょ―

毎日読んだ本の紹介と感想。気に入った本には★、とても気に入った本には★★をつけています。コメント・トラバはお気軽にどうぞ。
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★タイム・マシン 他九篇 (H.G.ウェルズ)
JUGEMテーマ:読書


H.G.ウェルズの代表作のひとつ、「タイム・マシン」。
時間飛行家が時間と空間についての思考実験からタイム・マシンを発明し、それに乗って人類の未来の姿を見に行くお話です。
本書にはその他にも、「新加速剤」「マジック・ショップ」「堀についた扉」「盲人国」など9編の短編も収録しています。


以下、内容に関して少しだけネタばれを含みます。


去年ぐらいに読んだのですが、レビューを書かぬまま内容を忘れてしまい、結局2回読みました。
まず表題作「タイム・マシン」。
時間飛行に関する理論付けも素晴らしいのだけど、さらに良いのは時間飛行家が飛んだ未来の描写です。
このお話が書かれたのは1895年で、つまり科学は明るい未来に向かって急速に進歩し続け、人類は衰退や滅亡のことなんてちっとも考えなかった時代です。
そんな時代に決して明るくない未来を描写するというのは、それだけで驚きに値すると思います。まして彼の描いた未来の描写が、100年以上経った現代でもきちんと通用するものだということは本当にすごいです。
特に紀元80万2701年後のエロイとモーロックの話は衝撃的でした。可能性の大いにあり得る物語で、SFの空想物語だとは言い切れないのが少し悲しいです。
3千万年以上未来の世界の描写についてはさもありなん、でした。
また、時間飛行家が未来から持ち帰る2本の花が、最後の場面では思いがけず作品に余韻を残していて、ちょっと切なくもなりました。


他にとても良かったのが、「塀についた扉」。
こちらは全然SF小説の風は無く、きれいな純文学だと個人的には思います。
途中までのあらすじはこうです。ライオネル・ウォルスはオックスフォードを卒業し、ロンドンで中々の成功をおさめた男。ですが、彼には幼い頃より、時折ふっと塀に緑色の扉があるのが見えるという変わった特徴がありました。その扉はいつも見えるわけではなく、現れる場所もまちまちで、望んだからといって見えるものでもありません。けれどその扉の奥に素敵な風景が広がっているのを知って以来、彼は扉の魅力にとりつかれてしまったのです――。
この「扉」というのが何を表しているのか、しばらく考えました。
周囲の人からは決して素敵なものには見えないけれど、本人にとってはかけがえのないもの。
ここに、幻覚症状に見舞われた男の愚かな物語だとは言えない、何かの寓意が込められているように思えてなりません。
「扉」が何かは人によって違うのかもしれません。ですが、私も個人的な緑の扉を何度か開けてまた閉めたような気がします。
いつか扉の向こうを求めるようになるのでしょうか。


長くなりましたが読んでよかったです。
2回読んでも全然退屈しませんでした。これからも繰り返し読もうと思います。





∽―――――∽
◆タイム・マシン
◆H.G.ウェルズ/著  橋本槇矩/訳
◆岩波文庫  1991年
旧約聖書出エジプト記 (関根正雄)
JUGEMテーマ:読書


たぶん多くの人が知っているであろう、モーセの出エジプトのお話。
旧約聖書は持っているのですが、なぜか買ったみたいです(去年買ってそのまま積んであった^^;)
というわけで、以下、内容についてのネタばれを含みます。


ごく短いお話で、高校の倫理などで習う内容そのままです。
誕生してすぐに川に流されたこと、ヤハウェがモーセの前に現れたこと、出エジプト、そしてヤハウェと交わした契約のこと。

出エジプトの際の海の奇蹟の話は、おぉこれがあの海の奇蹟! という感じでちょっと感動しました。
海が割れて道ができるってどんな現象なんでしょう。どこまで史実なのかは別としても、いかにも英雄的なエピソードで、想像するだけでワクワクしてしまいます。同じようにいかにも英雄的な話としては、誕生の際の川に流されたのに拾われる、という部分もそうですね。

それにしても民の神を信じないことといったら!
ヤハウェは次々と奇蹟を起こし、そのたびに民はヤハウェを信じるのですが、またすぐに神のことを忘れてしまうのです。
これは、困ったときだけ/ご利益のあったときだけ神を信じる、というお決まりのパターンのひとつなのでしょうか。
人間っていつでもどこでも変わらないものだなぁ、とちょっと呆れつつも、現実感のあるエピソードで好きです。

その他、契約内容の細かさには驚きました。
十戒はわかりやすくて良いのです。その他の契約内容が細かいのです。祭壇のつくり方から祭司の着る衣服まで、材料も手順も全て記されています。
ヤハウェってかなり細かい性格なのかなぁ。
こういった神様がらみの本には、各宗教の神様の性格がよく表れていて面白いと思います。神様の性格とそれを信じる人々の考え方・やり方は基本的なところで一致していると思うので、神様の様子を知ることは、それを信じた人々の生活を知る手がかりになり得るからです。
契約という概念からして古代の日本には無かったものなので、そういった観点からも面白く読めました。



旧約聖書じたいは小学生の頃に読んだ覚えがあるのですが、改めて全編を通じて読み直そうか、なんて気分になりました。
註釈の内容が研究者向けレベルの細かさで、ちょっと辟易したのですが、ひとつひとつの単語に対して色々な解釈が存在しているのですね。こういった内容を研究している方には面白く読めそうです。




∽―――――∽
◆旧約聖書 出エジプト記
◆関根 正雄/訳
◆岩波文庫  1969年
中国妖怪伝―怪しきものたちの系譜 (二階堂善弘)
『中国の神さま』の著者の本。今回は妖怪です。

『西遊記』や『封神演義』、『白蛇伝』といった割と名の知れた物語を題材に、中国に古代から伝わる妖怪伝やその変遷ぶりを解説した本。
専門書ではなく一般向けに書かれた本なので、語り口は平易で、内容も物語の一部分を引用して書かれた部分が多く、面白いです。


同じ東アジアの国なのに、中国と日本では妖怪はかなり違うのですね。
たとえば、お盆の風習がかなり違うことは知っていましたが、そもそも「鬼」が何をさす語か、という点からして全く違うとは知りませんでした。
また、「梁山伯と祝英台」はテレビドラマで見ましたが、もともとの話とは結末が違うということもはじめて知りました。
こんな調子で、知らないことだらけだったため興味深く読めました。
せっかく中国にいるのだから、妖怪物語にまつわる場所も訪ねてみたいなぁ。





∽―――――∽
◆中国妖怪伝 怪しきものたちの系譜
◆二階堂 善弘
◆平凡社新書  2003年3月
八十日間世界一周 (ジュール・ヴェルヌ)
八十日間世界一周
八十日間世界一周
ジュール ヴェルヌ


ジュール・ヴェルヌの不朽の名作。

主人公のイギリス紳士フィリアス・フォッグ氏は、フランス人の召使パスパルトゥーとともに世界一周の旅に出かけます。
旅の目的はただ一つ、80日以内にロンドンに帰ること。
彼はただ名誉のためだけに、80日で世界を一周できるかどうかという賭けに勝とうとしているのです。
……そんなお話。



内容もさることながら、解説が秀逸。
「旅における距離の概念が後退し、旅が、それに要する時間によってとらえられるようになる」(p.457)という指摘は、この小説が発売された当初から現在に至るまで変わらない現象だと思います。
うまく説明できないのがもどかしいのですが、距離ではなく時間という概念によって世界をとらえるようになったことで、世界のあり方は大きく変わったのではないでしょうか。


で、内容も、地球一周という壮大な距離ではなく80日というごく限られた時間の直線上の旅であるため、ふつうの旅行小説とは趣がだいぶ異なっています。
ふつうの小説では新しく訪れた土地の季候・風土・人々の生活ぶりやら建物の様子などを詳細に描写するものだと思うのですが、この小説ではそれらはかなり省かれています。ただ主人公たちが風のように通り過ぎる直線上でぶつかった物のみが描写されているのです。
たとえば中国は港周辺とアヘンの喫煙所だけ。
日本についても、横浜の街を散策した時の様子のみ。
旅の全てがこんな調子なので、世界旅行をする代わりにこの小説を読もうという方はちょっと物足りないかもしれません。
でも、この徹底した省略ぶりが逆に小説を面白くしているのも確かです。

加えて主人公の、時間短縮のためならいくら払ってもいいという「その極端な経済主義と拮抗するほどの、彼の強力な無償性への希求」(p.465)が何ともたまりません。
平時は時間のことだけを気にかけているのに、ひとたび何か事件が起これば、自身の道徳心(というか名誉)のために時間をかけてまで行動を起こそうとする、そんな主人公の一途で無鉄砲な心があるからこそ、この嵐のような旅がかけがえの無いものになっているように思います。
そもそも彼はお金のためではなくただ自身の名誉のために世界旅行に出、世界中に彼の財産をばらまくわけで、その事実からしてなかなかできることではない……ですよね。


現代にも通じる科学やものごとについての観念と、主人公の非人間的なまでのすばらしさとがヴェルヌの小説に共通した面白さなのだと再認識できてよかったです。やっぱりヴェルヌ好きだなぁ〜。





∽―――――∽
◆八十日間世界一周
◆ジュール・ヴェルヌ/作  鈴木啓二/訳
◆岩波文庫 2001年
アンティゴネー (ソポクレース)
アンティゴネー
アンティゴネー


ギリシア神話の「オイディプス王」の物語をご存知の方は多いかと思います。
気づかぬうちに実の父を殺し、また母と関係を持ってしまった悲劇のテーバイ王の物語です。オイディプスは有名なスフィンクスの謎かけを解いた人物でもあります。
本書はそのオイディプス王の物語に連なる作品で、
解説によれば、「オイディプス王」「コローノスのオイディプス」そして本作「アンティゴネー」の順で物語が展開されるようです。



まずあらすじを簡単に。
オイディプス王の2人の息子は仲違いをし、ついには戦争で刺し違え死んでしまいます(この経緯は『テーバイへ向かう七将』(岩波文庫から出ています)に詳しいようです)。
後を継いだクレオンは、兄弟のうち、自国テーバイを攻め敗れたポリュネイケスの葬送だけを禁止します。
これに腹を立てたオイディプス王の娘アンティゴネーは、密かに兄を手厚く葬ろうとしますが、見つかってしまい、叔父である王クレオンの前にしょっ引かれ事情聴取を受けるわけです。
さらにアンティゴネーの母や妹や許嫁も登場し、次々に自分の見解をクレオンに言うのですが……。



悲劇ですから、もう次から次へと人が死んでいく壮絶な物語ではありました。が、なかなか面白かったです。

なんといっても、強くてしっかり者で、でも怒りっぽいアンティゴネーの人物性が魅力的です。
許嫁との話にはロミオとジュリエットを想像してしまい、しんみりしてしまいました。

王クレオンは頑固者で、あぁ現実にもこういう人っているよなぁ、などと思いはじめは苛々しました。
けれどその頑固者が、徐々に自分の犯した罪に気づき、戸惑い、心を変えていく様はなかなかに読み応えがありました。
彼も可哀想な人なんですね。



オイディプス王の物語をご存知で、かつ結構好きだという方には、オススメできると思います。

今回読んだのは岩波文庫版ですが、新潮文庫から出ている『オイディプス王・アンティゴネ』には、両方の物語が収録されていますから、オイディプス王の物語を知らない方はこちらの方がいいかもしれません。
訳は岩波版が格調高い感じ、新潮版は読みやすさ重視といった感じでした。

また、ちくま文庫から出ている『ギリシア悲劇(2)』は、一連の3作品を全て収録しているようです。訳文のイメージは読んでいないので何とも言えませんが、全ての作品を一度に読みたい方はちくま版も検討してみると良いと思います。





∽―――――∽
◆アンティゴネー
◆ソポクレース/作  呉 茂一/訳
◆岩波文庫 1961年
濹東綺譚 (永井荷風)
〓東(ぼくとう)綺譚
〓東(ぼくとう)綺譚

タイトルは「ぼくとうきだん」と読みます。
「ぼく」の字は、閲覧環境によっては文字化けしているかもしれませんが、さんずいに墨と書きます。
作中での筆者自らの解説によると、墨田川(隅田川)の東を舞台とする物語だから、「濹東」なのだそうです。意味を知ってはじめて納得。


物書きを生業とする主人公(わたし)が、作品を執筆するにあたり舞台とする町をよく見ておこうとして、墨田川の東側、玉の井を訪れます。そこでお雪という古風な女性と出会い、ふたりは恋愛遊戯を楽しむ仲に。
一方で主人公はこの地を舞台にした小説を書き進めます。
小説の中の男と女には、主人公とお雪の関係が反映されています。けれど結末はまるで逆で――といったお話。


戦前の小説にしては、文章が難解でなくて読みやすいです。
当時の東京の様子がよく描写されていて、勉強にもなりました。
物語自体はとても短くて、結末も、あるべきところに落ち着いたという感じでした。


昔の東京は今のそれと全く違ったようです。
お雪は遊女(今で言うところの風俗嬢)です。
でも、昔はどうもシステムが違ったようで、女性たちはめいめい部屋をあてがわれていて、その部屋の窓から顔を出して自ら客引きをするのです。道を行き交う男たちとお雪が交わすたわいもない冗談のやり取りや、主人公とお雪の人情味あふれる会話には、今では無くなってしまった懐かしさを感じました。


難点を挙げると、時々意味のわからない単語があったこと。
大阪格子とか潰島田とか、小説を読む上で支障はありませんが、知っていればもっと楽しく読めたのにと思う言葉が幾つかありました。
たとえばお雪の髪型が古風だ、と書かれていても、島田結いが当時としては古風な髪の結い方だとは知らないわけで(そもそもどんな結い方なのかもわからないし)、「へー」としか思えません。
もう数十年経ったらこの小説にも注がつくんだろうなぁ。



町って百年も経たないうちにすっかり景色が変わってしまうものなのですね。
知らない時代の物語で、勉強になりました。





∽―――――∽
◆濹東綺譚
◆永井 荷風
◆岩波文庫 2003年
仏教入門 (三枝充悳)
仏教入門
仏教入門
三枝 充悳


久しぶりの岩波新書。
仏教「入門」と銘打っていますが、とても「入門」ではない、というのが率直な感想。



インド仏教の興隆史から始まって、仏教の様々な思想・重要人物・名著などについて歴史を追って解説がなされています。
が、これがちと難解なのです。
わかる人のために書かれた概説、といった感じで、つまり用語の説明など、かみくだいて懇切丁寧に説明されてるわけではないのです。
だからちょっと頭に入ってこない。

反面、すこしでも予備知識がある読者にとってはとてもわかりやすくまとめてあります。
加えてカントやヘーゲル、フロイトなどの西洋哲学との思想比較もされていて、面白いんだけどいっそう混乱しました。
個人的には、授業で習っていたインド仏教史や初期仏教の思想あたりはすらすら読めて興味深かったのですが、後半は予備知識がなかったため、大いに戸惑いました。


最終章では、中国・東南アジア・チベット・日本など、各国ごとの違いなどについても概説。
ただ、概説ですから本当にさらっと流した感じです。
私としては少し物足りなく思いました。ただアジア全域にわたって書かれているので、広範な知識が得られるし比較もできる、という意味では良いですね。



基礎知識のあるひと向けの「入門」。
加えて哲学に興味のあるひとなら、きっと面白く読めます。





∽―――――∽
◆仏教入門
◆三枝 充悳
◆岩波新書
(2004.09.15)
東京に暮らす (キャサリン・サンソム)
岩波文庫・青。


外交官の夫とともに日本にやって来た作者が、日本人とその生活を丹念に描写した本。
昭和初期の1928年〜1936年までの日本の様子を知ることができます。
平易で丁寧な文体でとても読みやすいです。



この時代、日本は戦争に向けてまっしぐらで、政治的に色々と暗いこともあったと思うのです。
ですが、作者はそんなことには触れずに、ただ日本人は「陽気で明るく、冗談がすき」だと言います。
作者の日本を見つめる視点はとても暖かいです。
作者はできる限り日本の良い部分を見つけようとし、悪い部分にはあまり触れません。
ですから、読んでいてちょっと恥ずかしいくらいでした。


意外だったのは、当時の日本が現在の日本とあまり変わらないこと。
もちろん、肥溜めは減り、車が移動手段の中心を占めるようになり、花嫁の衣装も黒絹の着物からドレスや白い着物に変わるなど、変化した部分は多々あります。
でも、日本人の国民性というか、息遣いのようなものはたいして変わっていなくて。
そのことがすこし意外でした。

ただ、「日本人の母親で子どもを虐待する者はいない」っていう記述には胸が痛んだなぁ。





∽―――――∽
◆東京に暮らす
◆キャサリン・サンソム
◆岩波文庫 1994年
現代の犯罪心理 (中村希明)
現代の犯罪心理―バラバラ事件からカルト集団の犯罪まで
現代の犯罪心理―バラバラ事件からカルト集団の犯罪まで
中村 希明


副題は「バラバラ事件からカルト集団の犯罪まで」。
題名の通り、昨今(といってもこの本が出版されたのは1995年なので、十年以上昔の話になりますが)の事件の顛末と考察を述べた本です。


この本が出版された1995年は、あのオウム真理教の大事件が起きた年。
ということもあってか、事件の考察を述べる部分が、いくつかの章にまたがって見られます。


一番面白く読んだのは4章と5章でした。
4章は被害妄想が起こるメカニズムについて、5章はカルト教団の話なのですが、
とくに、4章の、多重人格の多くは催眠療法によって作り出されたものであるという話と、5章の、幼少時に恵まれない環境にあった者がその劣等感が元で「教祖」となる、という話は、例示が豊富で説得力があるため、興味深く読めました。

その反面、全体としては事実(事件)の列挙に終わってしまったな、という印象が拭えず。
考察もたしかにあるのですが、筆者の独自性というか、新しい見解というのが見受けられなくて、どこかで見たような一般論精神論的な考察に終始している感じです。
そこがちょっと残念でした。





∽―――――∽
◆現代の犯罪心理
 バラバラ事件からカルト集団の犯罪まで
◆中村 希明
◆講談社ブルーバックス
(2004.05.03)
★精神鑑定とは何か (福島章)
精神鑑定とは何か―何をどう診断するか?
精神鑑定とは何か―何をどう診断するか?
福島 章


ベテラン精神鑑定人が、裁判でおなじみの精神鑑定の実像をわかりやすく説明しています。

ニュースを見ていて、一審で死刑の判決を受けていた被告人が二審で一転無罪になったりすると、「なぜだ何なのだ!」と思ってしまうこと、あると思います。
そんな不可思議な判決の裏にあるのが精神鑑定。
今までは怪しげなイメージを持っていたのですが、読了して、精神鑑定とは合理的で科学的な診断なのだということがわかりました。


精神鑑定というのは、心理テストだけ行うのではないそうで。
被告人の誕生から現在にいたるまでの細かな経歴を調べ、家族の話を聞きに出張したり、
内科のように問診をしたり、脳波の測定をしたり。
その上、今までの裁判記録を読んで、鑑定結果を長々とまとめるとなると、これはもう、大変に根気と努力のいる地道な作業のようです。
覚悟なしには出来ない仕事だなあ、とつくづく。


鑑定の結果は、精神病だけではないというのもはじめて知りました。
性格異常とか、精神病質、境界例なんて結果もあるそうです。
しかも性格異常の例示が多めで、もしかして自分も……? とひやひやしました。
決して特殊な話ではないんだろうな、と思います。
人間って数種類のパターンだけでは分類することができない生き物なんでしょうね。


時には被告人の命を左右することにもつながる精神鑑定。
それだけに、詐病については筆者は細心の注意を払っているようで、詐病を使って罪を逃れようとした被告人のケースもいくつか紹介されています。また、各心理テストや検査などでの詐病の見分け方についてもふれています。
ごまかしはなかなか通用しないというのがよくわかりました。

一方で、やはり誤診もあるようです。
筆者が再鑑定して、まったく別の結果が出たというケースがいくつか載っていました。
誤診のせいで死刑というのは、たとえ被告が極悪非道な殺人犯であったとしても、避けたいところ。
医療ミスが騒がれる時代において、精神鑑定家たちにも誠実な鑑定を求めたいものですね。


例がとにかく詳解で、わかりやすくてよかったです。
「これこれな鑑定をして、結果かくかくだったから、こういう結論に至った。その結果、裁判ではこんな判決が下された」という書き方を貫いていて、
だから話が論理的で明解なのです。
とくに二章に出てくるZの事例などは不可解な事件だけに、解決した時には、まさにミステリを読み終えた時の気持ちでした。

心理や精神系に興味のないひとでもきっと面白く読めるのではないかな?
オススメです。





∽―――――∽
◆精神鑑定とは何か
 何をどう診断するか?
◆福島 章
◆講談社ブルーバックス
(2004.05.02)

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