―いねむり どくしょ―

毎日読んだ本の紹介と感想。気に入った本には★、とても気に入った本には★★をつけています。コメント・トラバはお気軽にどうぞ。
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★電気サーカス (唐辺葉介)
唐辺葉介
アスキー・メディアワークス
(2013-11-21)

JUGEMテーマ:読書
cakesというサイトで連載されていた長編小説(リンク先は『電気サーカス』紹介ページ)。
サイトの方では有料ですが番外編も読めるようです。

まだインターネットが今ほど普及していない、一部の人だけが23時からのテレホーダイを心待ちにしていた時代。
主人公の水屋口は日記系テキストサイトを運営している青年で、
育った家庭が崩壊したことをきっかけに大学を辞め、テキスト系サイトやら音楽やらの創作活動をしているネット上の知り合い達とアパートで共同生活をはじめる。
といってもそれは創作意欲に満ちた明るいルームシェアではない。酒・煙草・合法ドラッグ・無気力な退廃に塗れた後ろ暗い日々の連続だ。
やがてオフ会で真赤と名乗る中学生の少女と知り合い、彼女を共同生活の輪に加えたことをきっかけに、彼らの人生は様々に流転しはじめ――といったストーリー。


ダイアルアップ接続、テレホーダイ、ICQ、HTML、タグ打ち、テキスト系サイト、オフ会。
そんな単語にぐっとくる方、たぶんストライクです。
私はテレホーダイの最後ぐらいからネットを開始したので、小説の時代より数年後ではあるのですが、
同じようにテキスト系サイトを運営していたこともあり、とてもとても、痛い小説でした。
あの頃はテキスト系サイトの全盛時代でした。
数年後にはブログが広がり、タグ打ち職人の時代はあっという間に終焉を迎えたわけですが、
あの数年はテキスト系の住人達にとって何か特別な時代でした。
あの頃サイトを運営していた方々はみんなどこへ行ってしまったのでしょう?気づけばあっという間にいなくなってしまいました。
当時属していたテキスト系コミュニティの住人で今も続けている人を、私はほんの数人しか知りません。

小説を構成する他の要素。恋愛、セックス、リストカット、自殺未遂、いわゆるボダ(かまってちゃん)、酒、煙草、合法ドラッグ、無職、ニート、退廃、ルームシェア。
これらの背後にある薄暗さは、たぶん時代に関係なく、昔から形を変えてずっと存在するものです。
この小説を一言で表すなら、こうした普遍の要素に上記の特別な時代感を組み合わせて書かれた青春小説といったところでしょうか。

あまりの描写の濃さと長さに始終クラクラし、おまけに自分の経験とかなり重なる部分もあったので余計に苦しく、読んでいる間は主人公同様に鬱々とした日々を送りました。
どうして自分のことを書いた小説が世に出ているのだろうと訝しんだ程でした。
小説というより私小説に近いのではないかしら。オフ会の様子といい、真赤の繰り返す突飛な行動といい、リアルで胸に迫るものがありました。
それだけに最後のあっけなさには少々驚きましたが、悪くない読後感です。
テキスト界隈の賑わいはあっという間に消えました。
主人公の乱痴気騒ぎに満ちた青春もまたあっという間に終わり、現実という圧倒的な社会の中に否応なしに取り込まれてゆくのです。
それでよいのです。

青春小説という言葉で括るとあまりに陳腐すぎますが、
ですが大人になるということはなんという痛みを伴う行為でしょう。

あと数年もすれば、この小説と同じテーマを形を変えて書く人が現れるのかもしれません。
そこではテキスト系サイト管理人という言葉の代わりに、プロ生主とか、あるいは歌い手とか、そんな言葉が使われるのでしょう。
けれど、たとえ言葉は置き換わっても、テーマは永遠に変わらないだろうと思います。
いつもいつの時代も、それこそきっと百年前も百年後もずっと。
人生の中でほんの数年の持つ圧倒的な輝きと、その後ろにある大きな大きなブラックホール。
ひとは心に抱えた大きな暗闇の縁をやっとふらふら渡りきって、社会に出て行くのでしょう。
そうしていつか、かつて渡りきったブラックホールの存在を忘れると同時に、輝きも無くてしまうのです。
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ビアンカ・オーバースタディ (筒井康隆)
JUGEMテーマ:読書
 ”あの”筒井康隆が、ラノベに参戦。しかもイラストは”あの”いとうのいぢ。

ビアンカ北町は高校の男子生徒誰もが憧れる超絶美少女。生物研究部の一員である彼女は、放課後になると毎日怪しい研究を繰り返す。
彼女の実験に、文芸部の頼りない後輩男子やクラスメイトのヤンキー系美女、ビアンカのうぶで可愛い妹、さらには”未来人”までが巻き込まれて――。



帯の言葉通り、「2010年代の『時をかける少女』」でした。
2010年代ある意味最強の2人がタッグを組んで送るライトノベル、直球勝負の作品です。
わかりやすくキャラの立った登場人物、簡潔で無駄のないストーリー展開、適度に口語で読みやすい文体。
ライトノベルの書き方で『時かけ』を書き直すとこうなりました! という感じでしょうか。
それも作者自身が書いたオマージュ作品なわけで、作者のファンならずとも楽しめると思います(なので、『時かけ』を読んでからこちらの小説を読んだ方がニヤニヤできます)。
往年の作者ファンの中には、もしかしたらこの小説ではじめてラノベに触れる方もいるのかしら。お色気たっぷりの内容・イラストなので、気絶しないといいのですが……。

『時かけ』の、淡くて甘酸っぱくて爽やかな読後感もいいですが、こちらのちょっと刺激的でドタバタな「新・時かけ」もまた、全く違う色合いの作品に仕上がっていて今風で私は好きです。

それにしても筒井康隆氏、この歳で新たなジャンル開拓、それもきっちりラノベの王道を押さえてくるとは、さすがです。
続きが出れば読みたいけれど、でも「新・時かけ」としてこれで完結した方が綺麗にまとまる気もするし、悩ましいところです。


カラーイラストも豊富だし、すぐに読み終えられる長さだし、日曜の午後に日なたに寝そべって読むにはぴったりかも。
逆に満員電車で読むのはオススメできません。イラストはともかく、内容が一部、たいそう刺激的なので……(章題に全て「スペルマ」の文字が含まれている、と書けば何となくわかるかしら)。
読み始めた頃は目玉が飛び出るかと思いました。もしかして官能小説だったのかと疑ったくらいです。

かつての『時かけ』ファンと、新時代の『時かけ』ファンへ。
気楽に読めて、でも実は色々と凝りに凝りまくっている作品です。編集者、気合い充分です。
人類は衰退しました7 (田中ロミオ)
JUGEMテーマ:読書
 「妖精さんたちの、ちいさながっこう」、「人類流の、さえたやりかた」の2本収録(プラス、いつもの活動報告)。

「〜がっこう」では、クスノキの里に私設学校が開校します。先生は持ち回り、生徒は3人。ところがこの3人は揃いも揃って悪ガキで、おまけに親はモンスターペアレント。
主人公の「わたし」は何とかまともに授業が行われるよう、奮闘しますが――というお話。

「〜さえたやりかた」では、「〜がっこう」とは一転、「わたし」は記憶喪失の状態で何者かに追われ続けます。妖精さん達の力は弱く、「わたし」は自分が何をしていたのかさっぱり思い出せません。
迫り来る追手に対処し、「わたし」は記憶を取り戻すことができるのでしょうか?


このシリーズ、いつもはほわほわした空気を楽しみつつのんびり読めるのですが、今回はなかなかにヘビーでした。読むのにちょいと時間がかかりました。

「がっこう」は、学力低下、学級崩壊、モンスターペアレントと、一筋縄ではいかない題材を取り扱ってるいます。
主人公の「わたし」も結構正面から問題に取り組むのです。
そのため、中編ではありますが読み応え充分でした。
いつものシリーズに漂うお気楽な空気を味わえたのは、全てのマイナス語がPTA推奨語に置き換わる部分と、妖精さんのゴキブリを捕まえに行く件ぐらいでしょうか。
PTA推奨語への置き換え、たとえば「悪口を言う」→「ユニークなおしゃべり」とか、「ビンタする」→「ほっぺに虫がとまっていた」など。
PTAへの配慮のためにわざわざ言い換えているのに、逆におちょくっているように聞こえる魔法の言葉です。
小説の中のネタ、冗談で済めばいいのですが、現実になりそうな気がして少し怖いのは私だけでしょうか……。

いつものように妖精さんが大活躍なお話かと思いきや、今作はあくまでも人間が主役でした。
読んでいて重く感じたのはそのせいもあるかもしれません。
良くも悪くも(気分転換に読むシリーズだと思っていたので)ヘビーな中編でした。


「さえたやりかた」もヘビーでしたが、重さの種類が違います。
いきなりの記憶喪失、謎の追手、という緊迫した状況を打開していくハードな中編です。
オチが冴えていて、さらに最後の活動報告も、オチにさらにオチをつけるような内容で、全て読み終えてから再読すると、見えなかった部分が見えてくる仕掛けです。
こちらも妖精さんはあくまで脇役です。


シリーズもいつの間にやら7まで続き、2012年夏にはアニメ化もされましたが
続きを楽しみにしています。
次回はもっと、いつものような脱力お気楽系だといいなあ。のんびりと息抜きに読みたいものです。
きみを守るためにぼくは夢をみる(白倉由美)
JUGEMテーマ:読書
 
中学生になった”ぼく”こと大江朔は、迷いながら、躓きながら、深くて暗くて迷いやすい思春期という森を歩きはじめる。
ぼくの前にクラスメートの不思議な女の子が登場したり、家族の間で一悶着あったり、ぼく自身の問題以外に考えなければいけないことも多くなった。
砂緒ちゃんとは相変わらず相思相愛だったけれど、二人の心も絶えずすれ違うようになる。
果たして二人が結ばれる日は来るのか?まだまだ3巻に続くらしい――。



1巻よりもだいぶ文章がこなれてきて、ようやく物語の世界に没入できるようになりました。
相変わらず夢見がちな直喩の多い文体ですが、読んでいるうちに慣れてきた感じです。
ただ登場人物全員が本音で腹を割って話し合う、というスタイルは、ちょっと現実感がなさすぎる気がします。
心に思うところがあっても直接言わずに、さりげなく態度で表現したり、それこそ小説の世界なので泣きたい時は雨が降ったりといった情景描写などで示唆する方がスマートではないでしょうか。
好みの問題かもしれませんが、そんなことを思いました。


内容は、ひたすら、もどかしかったです。
もしこの小説の主人公二人の性別が逆だったら、つまり朔が女の子で、男の子の砂緒ちゃんに追いつこうと必死だったら、もっとあれこれ迷走せずに結ばれたのかもしれないなぁ、なんて思います。
小学生だった朔はとても大人びて見えましたが、2巻で中学生になってからは、ひたすら等身大で幼くて、振り回される砂緒ちゃんが可哀想です。

この巻では朔の家族の問題がはじめて提示されますが、あっさりと解決してしまって少しもったいなく感じました。
思春期の森を抜ける上で、家族のことは大きな問題になり得るはずです。
朔がママや公彦のことを大好きなのはわかるけれど、大好きだからって問題が起きた時にあっさり乗り越えられるものでしょうか?
家族よりも恋愛を主題にした小説なので、あえて掘り下げなかったのかもしれませんが、
個人的にはもっともがいて悩む朔が見たかったです。そうして大人になる朔が知りたかったです。


それにしてもラストのシーンのどんでん返しにはやられました。
二人の未来が明るいものでありますように。朔が思春期の森を抜けて大人になりますように。
3巻が待ち遠しいです。
きみを守るためにぼくは夢をみる (白倉由美)
JUGEMテーマ:読書
 
児童文学に分類されていて、もとは講談社から刊行されたものを星海社から文庫化したもの。
表紙と、表紙をめくってすぐにある一枚のイラストが、新海誠さんです。

小学四年生、十歳の"ぼく"こと大江朔は、誕生日に同級生の河原砂緒ちゃんとはじめてデートした。
帰り道、公園のベンチで寝てしまったぼくが目を覚ますと、いつの間にか七年の時間が経っていた。ぼくは十歳のままなのに、砂緒ちゃんは完璧な一七歳に成長していた。
ぼくは十歳の体と心のまま、あの日砂緒ちゃんと交わした大切な約束も思い出せない。
さて、二人の淡い恋の行方は――?!



一言で表すなら、中二全開小説とか、ドリーム小説といった感じでしょうか。
児童文学という割に、主人公は十歳とは思えない大人びた思考・行動をするし、
目覚めたら七年の月日が経っていて、しかも体も心も成長しないままだなんて、現実にはあり得ない設定です。

描写も夢見がちでとても長いです。
登場人物が笑うだけで花が咲くし、主人公はしょっちゅう月を見上げるし、女の子たちはみんな、周囲の人たちがふりかえるほどの美人だし。
「〜のような…」という表現が散見されて、、描写としてはちょっと拙く感じられました。

加えて、場面ごとに一つの章に区切られているのですが、一章(一場面)がほんの数ページしかないし、長くて抽象的な章題がつけられていて、それぞれの章に没入することができませんでした。
場面が切り替わりすぎです。おまけにその短い一場面の描写も、夢見がちすぎな描写が長くて、肝心の場面や心理描写の分量が物足りなく感じました。
それぞれの場面の雰囲気はとてもいいのに、雰囲気だけで、中身をしっかり味あわせてもらう前に次の場面に飛んでしまうのはもったいないと思います。
文章力という意味では、作文よりは上だけれど、小説としてはちょっと疑問を感じてしまいました。
小説を読んでいるというより、映画かマンガのワンシーンを文章に直したものを読んでいるような気分でした。
映像化すればとてもきれいだろうとは思います。少女マンガ的で。


批判めいたことを書きましたが、一途な恋を一途に描いているという点はとても好感がもてました。
特に出だしの、朔と砂緒がデートする場面。夢見がちな描写炸裂で、一行読む度に悶絶して転げまわりそうになりました。とてもとても好きです。好みです。

新海誠さんの表紙が目当てでジャケ買いしましたが、続編も楽しみに読もうと思います。
二人の恋がどうか、うまくいきますように。
時間のおとしもの (入間人間)
JUGEMテーマ:読書
 「時間」をテーマにした短編集。
うち、書下ろしは『時間のおとしもの』一編、他はあちこち掲載したもの、かな?
あとがきによれば初期の作品をリライトしたものもあるとのことで、確かに最近の作品とは少し書き味などが違うものもあるように感じました。

以下、各話について簡単に。


「携帯電波」

小学生の少女がある日台所で見つけた箱の中には、携帯電話が入っていた。
ちょうどかかってきた電話に出ると、相手も「私」を名乗っている。どうやらもう一人の自分に電話が繋がったらしい。さらに不思議なことに、電話を切った途端にもう一人の「私」と世界が入れ替わってしまい――。

並行世界モノです。短期的に世界が入れ替わるというより、かなり長期の。
小学生の主人公らしく、「拠ん所なきじじょーってやつ」とか「びゅーちほ」といった、かなりくだけた口語文体ではじまる物語が(口語とはいえ雰囲気にあっていて違和感を感じることもなく、うまい)、いつの間にかSFチックな文体に変わり(ちょっと読みにくい)、なかなか前衛的な表現を経て、ちょっと恐怖のラストに至る、という趣向。
アンソロジー『19』に収録されている短編「19歳だった」の主人公がちらっと登場した(存在が示唆されるだけですが)のにはニヤリとしました。


「未来を待った男」

タイムトラベルの研究をする「私」と「瀬川」の青春譚。瀬川の目標はタイムトラベラーを呼び寄せること。なんでも、やり直したい過去があるらしい。数々のむなしい努力を積み重ね、やがてついにその時がやって来るが――。

タイムトラベルモノ。今回の短編集の中で、ダントツに好きです。
瀬川のもとにタイムトラベラーがやって来てからの、ラストのくだりがたまりません。
研究にあけくれ、居酒屋では安い手羽先と水で空腹を埋めたり、夏の海ではカップルを心の中で罵倒しながらスイカ割りに興じたりする二人ですが、それもまた青春で、青春譚で、しまいには居酒屋で手羽先をひたすら頼むシーンすら胸にぐっと来るようになる、そんな仕掛けが心憎いです。


「ベストオーダー」

ある日突然現れた四人の「俺」。互いの存在を認めた「俺」たちは、同じ人間が四人いることを生かして完全犯罪を試みる。完璧なアリバイができるはずだったが――。

並行世界モノ。それぞれの世界が重なって同じ場所に四人の同一人物が現れたからって、なにも犯罪に走らなくても、とヒヤヒヤしつつ、突き抜けた設定があるからこそ面白い作品でした。
最後には探偵・花咲太郎も登場したりと、作者のファンはかなり楽しめるのではないでしょうか。


「時間のおとしもの」

会社勤めの「俺」には、中学生のときに出会ってから忘れられない女の子がいた。今更どうしようもないと思っていたが、ある日偶然通勤電車で一緒になった小学生の女の子との出会いが、「俺」の意識を変えていく。

ほのぼのした空気の流れる短編。並行世界もタイムトラベルも存在しない、日常の時間の物語です。
なかなかきれいにまとまっているのですが、指輪の設定は無くてもよかったのでは、と思います。きれいな物語が変な方向に進んでしまいそうで焦りました。


短編集ではよく、作品のテーマや質がバラバラすぎて買ったことを少し後悔する場合もありますが、
今回は「時間」という統一テーマがあり、よくまとまっているのではないでしょうか。
それにしても作者さんは、アンソロジーの「19歳だった」といい、少し前に出版された『昨日は彼女も恋してた』・『明日も彼女は恋をする』といい、時間をめぐる物語をよく書きますね。
同じテーマなのにこれだけ多くの切り口を見られるとは、ファンとして嬉しいかぎりです。
★死体泥棒 (唐辺葉介)
JUGEMテーマ:読書
 
「僕」の彼女はある日突然死んでしまった。
葬儀会場から彼女の死体を盗み出し、1人暮らしの部屋の、業務用冷凍庫の中に丁寧に横たえる。
こうして「僕」と彼女の同棲生活がはじまるが――。


かつて、作者の『PSYCHE』の感想を書いた際、私は
この方の書く作品は、どんな媒体であっても同じように、出口のない迷路の中を彷徨うモルモットを描くような感じなのですが、今回も期待通りでした。
と表現しました。
今回の作品もやはり、出口の見えない迷路の中を懸命に進むモルモットを描くような内容なのですが、
最後に希望の光がちらりと見える。そこが今までの作品と大きく違う点です。

「僕」と彼女(の死体)の同棲生活が物語の中心となるのですが、
死体となって冷たく横たわる彼女について、「僕」が特別何か大きなことをすることもなく、
二人とも生きていた頃の思い出話もそれほど多くはなく、
現在の「僕」の生活描写が淡々と続くかたちです。
恋愛小説ですが、相手は死体なので、甘い恋愛描写のあれこれがあるわけもなく、
いい意味で恋愛小説らしくないというか、甘ったるいものが苦手な方でも比較的安心して読める小説ではないでしょうか。

主人公の視点で物語が進むため、丁寧な解説が入るわけでもなく、前半はわけがわからないまま、ただ「僕」と一緒に彼女の死体を盗み、業務用冷凍庫に横たえました。
そのうちにだんだんと「僕」の生い立ちが語られはじめ、そうすると俄然興味深く、読み終えるまで寝られなくなりました。
特にラスト。
出口の見えない袋小路にいよいよ主人公が追い詰められてからが、圧巻でした。


(※以下、結末に関わるネタばれを少し含みます。完全なネタばれにはならないよう気をつけたつもりですが、未読の方はご注意ください。)

ところで人間を人間たらしめているものは何でしょうか。
それは肉体でしょうか。それとも精神でしょうか。外見でしょうか。あるいは内面性でしょうか。もしかして脳や眼球や内臓でしょうか。
「(略)パントマイムって知ってるかい?肉体の動きだけで、そこに存在しない鞄や壁を見てる人間の心の中に作り出すんだ。君の言ってる『人間の中身』ってやつは、そのパントマイムによって想像される鞄となんの違いがあるんだろう?(後略)」(p.181)
文中で「僕」が語るこの長台詞が、この作品のテーマをよく表しているように思います。
「僕」は、人間を人間たらしめているものは肉体でも内面性でも内臓でもないとわかっていて、
それでもなお、彼女の死体の傍にいることにこだわり続けます。
誰かが死んでしまった時、私たちは一般に、葬式をして遺体を焼くことで気持ちに一つの大きな区切りをつけます。
その人が私たちの目に見えるか見えないか、というのは実は大きな違いで、故人が骨になり、煙になることで(あるいは土葬の場合は土の中に棺を埋めることで)、私たちはやっと、その人がもういないのだと実感するのです。
ところが小説の中の「僕」はそれをしないのです。葬儀会場を荒らし、遺体を盗み、彼女を永遠に保存しようとするわけです。
そうして袋小路に追い詰められていく描写が圧倒的で(そりゃあ、するべきお別れをしないわけですから)、だから最後に出口が見えたラストが反対にとても美しくて、読み終えてからもしばらく寝つけませんでした。


全て計算し尽くされた、美しい小説でした。全然内容は違うのですが、読んでいて桜庭一樹の『私の男』を思い出しました。
惜しむらくは、もっと「僕」と彼女の個人的な恋愛の描写を読みたかったです。
文中ではあまり描写がなかったのですが、「僕」に死体泥棒させるまでの彼女との親密な何かが、もっとあったと思うのです。
それをたっぷりと見せつけられて、甘い甘い空気の中で読者を窒息させて、それから袋小路に突き落とす。
そうすればもっともっと美しい恋愛小説になったのではないでしょうか。

★旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (萬屋直人)
JUGEMテーマ:読書
 「喪失症」――その新しい病にかかると、人は名前を、色彩を、影を失くし、やがて突如世界から消えてしまう。名刺や本、絵画など、自分の名の入ったものは何一つこの世に遺せない――。
そんな奇病が蔓延する世界で、少年と少女もまた喪失症にかかっていた。
名前を失くした彼らは、互いに「少年」「少女」と呼び合い、スーパーカブで北の島を旅している――世界の果てをめざして。


さて、もし現実にそんな病が蔓延したとしたら。自分が喪失症にかかってしまったとしたら。
残りの人生をどう生きましょう?
自堕落に生きる?少年少女のように旅に出る?やりたかったことにチャレンジする?それとも愛に生きる?

もしかすると、本書に登場する多くの人々の生き方が、ちょっとだけ参考になるのかもしれません。
少年少女が旅の途中で出会う、取締役と秘書、ボスとその仲間たち、姫と先生とじいちゃんたち……。
気づいたのは、本書に登場するひとたちには、誰一人として孤独な生き方を選ぶ者がいないということ。
たとえある日突然この世から消えてしまうとしても、いや、だからこそ、ひとは独りではいられないのかもしれません。
本質的には独りだとしても、消えるときはひとりだとしても、ね。

物語は淡々と進み、恋愛要素だとかコメディ的展開は薄いのだけれど、だからこそ少年と少女の絆の強さが感じられました。
このままシリーズになってもいけそうだけど、だからこそ一冊で終わりでいいのかもしれません。

たとえ自分の生きた痕跡を遺せないのだとしても。
名前も顔も曖昧な存在になってしまうとしても。
人生を精一杯生きることは素晴らしいし、その時ひとりではなく誰かがそばにいるともっといい。
そんなことを淡々と教えてくれる小説でした。
★さよならピアノソナタ―encore piecies (杉井光)
JUGEMテーマ:読書
 『さよならピアノソナタ』登場人物たちのその後を描いた、短編集。
本編より前の話も、本編と平行する時間の物語も、ずっと未来のストーリーも。計五編。

物語としては四巻で完結しているので、その後を描いた小説というとたいていファン向けの内輪ネタか、ちょっとレベルが落ちていてがっかりするかのいずれかの場合が多いのですが、
この小説に限っては、もしかして本編より優れているかもしれません。
読んでよかったと思えた一冊。
そして表紙のまふまふが可愛すぎです!

以下、各話について完結に。本編に関するネタばれを含みます。注意。


"Sonate pour deux"

ナオと真冬のその後の物語。
音楽業界で働くようになったナオが、ある作曲家の遺した楽譜を探すうちに、人生を考え、真冬との関係を考え、やがて大きく成長する様を描いた短編です。
相変わらず不器用で読んでいてもどかしいくらいのナオが、ゆっくりと、たしかな結論を導き出すまでの過程が丁寧に描写されていて、最後はなかなか感動的でした。
本編を読んでいなくても、短編としてじゅうぶん楽しめる作品ではないでしょうか。


翼に名前がないなら

フェケテリコに新しくサポートメンバーとして加わった橘花の成長譚。
響子や千晶のある意味変わらない姿と、変わってゆくバンドとしてのかたち。
三人三様の悩める姿と、音楽をやっている時の熱いやり取り。
今回の短編集の中ではある意味いちばん、本編を引き継いだ内容かもしれません。


ステレオフォニックの恋

ナオや真冬たちの大切な仲間にして天才的ヴァイオリニスト、ユーリがひたすら恋に悩むお話。
ユーリだから成り立つ物語です。
サイモン&ガーファンクルの「水曜の朝、午前三時」をぜひ、ヘッドフォンかイヤフォンで聴きながらどうぞ(あの歌は本当に特別なのだと私も思います)。


最後のインタビュー

フェケテリコ結成以前の、響子の恋と傷の物語。
これがまた、バンド小説の王道を行くような青春ストーリーです、いい意味で。
シリーズの中で一番青くて痛々しいけれど、だからこそ余韻のある物語です。
この話で響子の輪郭にいっそう深みが増したと思います。


だれも寝てはならぬ

ナオの悩める中年親父、哲朗が、自分の人生を歩みだすお話。
内容は短編第一話の"Sonate pour deux"と繋がっていて、短くてコミカルながらも味のある、一夜の物語です。
短編集の中でいちばん好きかもしれません。


シリーズは完結してしまいましたし、もうこれ以上の短編集もなさそうですが、
フェケテリコの翼が、ナオや真冬や響子や千晶やユーリや、哲朗やエビチリの物語が、
これからも大きな空の下で続いていくのだとたしかに感じられた一冊でした。
本当に人は、言葉では足りないから音楽で、精一杯誰かと繋がろうとするんですね。
★さよならピアノソナタ1〜4 (杉井光)
JUGEMテーマ:読書
 全てのはじまりは、電車に揺られて数時間。「心からの願いの百貨店」と名づけたゴミ捨て場で真冬に出逢ったことだった――。
 校舎裏の空き教室で、一人ゆっくり音楽を聞いて過ごすはずだった高校生活。
ところがひょんなことから、主人公・ナオは、天才ピアニストの真冬や、「革命家」響子、幼馴染みの千晶と4人でバンドを結成することに。
恋と革命の熱い物語が今、はじまる――。


バンドもの、といえば熱い青春テーマのひとつですが。このシリーズも例に違わず、熱いです。
ひとつのバンドが結成され、ライブに向けての練習や、バンドメンバー、他のバンドとの交流の中で人間関係のあれこれが繰り返される。時に最高の瞬間があり、時にバンド解散の危機もある。
そんな風景は、音楽をやっていた人ならばきっと馴染みのあるシーンばかりのはずで、
私もかつてかじっていたことがあるからか、余計に胸が熱くなりっぱなしの4冊でした。

ベースの腕前は発展途上だけれど、楽器の修理や音楽理論や評論はプロな主人公・ナオ。
ツンツンしてるけれど真っ直ぐな、天才ピアニストでギタリストの真冬。
策略家で仲間思い、強い精神の持ち主のギター・ボーカル、響子。
練習熱心でちょっとやんちゃで不器用なドラムの千晶。
メンバー4人も、ナオや真冬の父親も、ヴァイオリニストのユーリも、みんなみんなキャラが立っていて、誰がいちばんというのではなく、全員を応援したくなるような、丁寧な描写に好感が持てます。

ビートルズやイーグルスなどメジャーどころの洋楽と、クラッシック。
たくさんの名曲が登場するので、音楽をかけながらそのシーンを楽しむ、という読み方もオススメです。
知らない音楽に触れられるという点で、良いきっかけにもなり得る本だとも思います。

恋愛感情も、友情も。
大切な言葉はいつも、言葉なんかじゃうまく伝えられなくて、だから音楽で繋がるんだ。
不器用だけどやさしくてあったかくて、かなりもどかしいけど、そんな王道のボーイ・ミーツ・ガール物語です。
人を選ばない、オススメ作品。
読み終わって無性にひさしぶりにベースが弾きたくなりました。

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