―いねむり どくしょ―

毎日読んだ本の紹介と感想。気に入った本には★、とても気に入った本には★★をつけています。コメント・トラバはお気軽にどうぞ。
のんびり更新しております。
<< June 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
 
PROFILE
RECOMMEND
レインツリーの国 (新潮文庫)
レインツリーの国 (新潮文庫) (JUGEMレビュー »)
有川 浩
読了。すっごく楽しいひとときでした。伸とひとみの会話に悶絶。近いうちに感想書きたいな。
RECOMMEND
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) (JUGEMレビュー »)
カズオ・イシグロ
読了。昨年読んだ中では一番よかった作品。時間を見つけて感想書きます。
RECOMMEND
図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)
図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫) (JUGEMレビュー »)
有川 浩
読了。軽く読めて面白い。感想はちょっと時間かかるかも。
RECOMMEND
昨日は彼女も恋してた (メディアワークス文庫)
昨日は彼女も恋してた (メディアワークス文庫) (JUGEMレビュー »)
入間 人間
続編とあわせて読了。よくある恋愛小説かと思いきや、とんでもないどんでん返しでした。
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
MOBILE
qrcode
PR
 
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- | | - | - | - | - |
Life in the Desert 砂漠に棲む (美奈子アルケトビ)

JUGEMテーマ:読書

 

前作『砂漠のわが家』から1年半。

UAEの砂漠でたくさんの動物に囲まれて暮らす作者のフォトエッセイ、第2弾です。

前作よりも大きな写真集で、写真の量もエッセイの量も増えていて読みごたえたっぷりです。

 

今作は3つのパートに分けられています。

砂漠と動物の写真、UAEでの生活ぶりについての写真、そしてエッセイが中心のパートです。

 

中でも動物たちの写真に多くのページが割かれています。

砂漠から昇る朝日、砂に残された生き物の足あと、ガゼルや猫たちの満足げな顔。

特に動物たちの表情(眠そうだったり、仲間と喧嘩していたり)は前作以上に豊かで、自分も砂漠で彼らと暮らしているような気にすらなりました。

特に馬のサラーミーが欠伸をしている瞬間の写真は必見です。

 

今作ではUAEでの暮らしについても少し触れられていて、

いかにもアラビアンという感じの異国情緒あふれる家具や食事のメニューなどの写真もたくさん収録されています。

異文化生活に興味のある方ならきっと楽しめると思います。

 

また、作者がUAEの砂漠で暮らすようになるまでの半生も綴られています。

前作を読んだだけではわからなかった(そしてそのことに少し物足りなく感じた)作者について、人生観や性格までもうかがい知ることができました。

前向きで達観していて、でもどこまでも温かい作者のはなももさん。

写真集の動物たちが安心した表情を見せているのは、作者の愛情がたっぷり注がれているからですね。

 

第2弾ではありますが、今作だけでも充分楽しめます。

動物好きな方やアラブの生活に興味のある方に、おすすめです。

砂漠のわが家 (美奈子アルケトビ)

JUGEMテーマ:読書

 

UAEの砂漠で暮らす作者の家族の日常を収めたフォトエッセイ。

家族といっても登場する人間は、作者ご本人とUAE人の旦那様のみ。

あとのメンバーはガゼル、ラクダ、イヌ、ハト、ウマ、ネコ、ウサギ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ……その数なんと合計200匹!!

 

私はアラブの砂漠に行ったことがないので、どんなところなのかと想像を巡らせても、それこそ幼い頃に読んだアラビアンナイトのイメージぐらいしか浮かばないのだけれど、

実際にはオアシス以外の場所でもちょこちょこ草木が生えていること、ハリネズミやフンコロガシなどの小さな生き物がたくさん暮らしていて豊かな生態系があること、砂についた足あとや風紋がとてもきれいなこと、全部初めて知りました。

 

また動物の表情がね、とても自然体でのびのびしていて良いのです。

ガゼルはガゼル、ネコはネコ、と種類ごとにページがまとめられているけれど、中にはラクダとハトとか、ネコと雛鳥といったツーショット写真もあって、思わぬ組み合わせやその表情にどきりとさせられます。

動物の表情は時に人間の言葉以上に雄弁ですね。

惜しむらくは、見開き1ページ全部を使った写真だと、ちょうど真ん中のところに動物の顔や体が来てしまっていること。

あっちょっとこの表情どうなっているの! と本を限界まで左右に引っ張ってしまいました。

 

最新のはなももさんの暮らしぶりは、ツイッターやブログで見ることができます。

・ツイッター https://twitter.com/hanamomoact

・はなももの別館 http://hanamomoac.exblog.jp/

 

この本が出たのは2014年なので、上記ツイッターやブログに登場する動物たちの少し若い(?)頃の写真と見比べるのも楽しいです。

あびさん(ネコ)が若い! とか、ペティさん(ウサギ)はこの頃からあびさんに夢中だったのね! などなど。

 

巻末にはこんなにたくさんの動物たちと暮らすことになった経緯も簡単に書かれています。

あくまでこの本の主役は動物たち(と旦那様)なので、人間様の異文化生活についてはほとんど触れられていません。そちらを期待すると肩透かしを食らうかも。

各ページにそえられたアラビア文字(たしか旦那様が書かれたとか)もとても美しく、見ていて飽きない1冊です。

 

★ゲームウォーズ 上・下 (アーネスト・クライン)
JUGEMテーマ:読書

時は2041年。全世界に巨大なネットシステム<オアシス>が張りめぐらされ、学校も仕事もあらゆることがネット上の<オアシス>の世界の中で完結するようになった近未来の地球で、ある日、<オアシス>開発者のジェームズ・ハリデーが死去したというニュースが流れるところから物語は始まる。
ハリデーは自身の開発した<オアシス>内に3つのイースターエッグを隠した。それを一番最初に見つけた者に、遺産の全てを譲るというのだ。
主人公のウェイド・ワッツはアメリカの小さな街に暮らす青年。成績も顔も並みで、両親はすでに亡くなり、叔母には邪険にされ、現実でも<オアシス>の中でも貧しくてパッとしない。
けれど彼には人とは違うところが一つだけあった。<オアシス>とハリデーのことを敬愛し、ハリデーのイースターエッグ探し(エッグ・ハント)に並々ならぬ情熱を注いでいたのだ。
彼のエッグ・ハントが成功する日は来るのか?――という物語。


今年「ピクセル」という映画が公開されたが、本作の雰囲気やメインターゲットになるだろう読者層は、「ピクセル」に非常に近い。
つまり1980年代に青春を過ごし、それもいわゆるリア充ではなく、オタクとしてゲーセンのインベーダーゲームや初期のアタリ製などのゲーム、映画、日本のアニメなどに熱中していた人たちに、本作は非常に刺さると思う。
ハリデーも、そして作者のアーネスト・クラインもまさにこの80年代を愛してやまない男で、作中いたるところ(エッグ・ハントにかかわる重要な場面からちょっとした日常のエピソードまで)に当時の映画の台詞やゲームの名場面が散りばめられ、作者と同世代の人ならニヤニヤが止まらないのでは。
でも決してその世代でなければ、ネタがわからなければつまらないという類の内輪向け小説ではない(そうでなければアメリカでこんなに売れて、映画化まで決定したわけがない)。
私は作者より下の世代で知らないネタが殆どだったけれど、ストーリーは問題なく楽しめたし、むしろ作者やハリデーや主人公の熱狂的なまでの80年代愛は心地いいくらいだった。

何より、仮想世界<オアシス>と現実との間で悩む物語は、SAO(『ソード・アート・オンライン』)などにとても近いものがあり、それだけで大変な親近感だった。
ネットゲームとかやる人なら主人公の気持ちはとても共感できるはず。

ストーリー展開はありきたりで、最後の結末も「こんなに引っ張っておいて結局それかよ!」という感じの作者の主張のようなものが入っていたが、この本の楽しみはそもそも結末を予想することではなく、その過程に一喜一憂したり共感しまくったりすることなのだと思う。
SFの括りに入る近未来モノだが、目新しいところは特にないので、普段あまりSFを読まない人でも戸惑わずにスッと入っていけるはず。ただネットとかゲームとか全く好きじゃない人には厳しいかも。
アメリカ版SAOというか、そんな感じの小説でした。
まこという名の不思議顔の猫 まこまこドリームBOX (前田敬子、岡優太郎)
JUGEMテーマ:読書
流行りの付録本。純粋な本ではないのですが、本も含まれるということでご紹介。
絵本にブックカバー、ペンケース、付箋、ボールペンのついたセットです。

題名どおりの不思議な顔をした猫、まこちゃん。
ネットで人気の猫で、関連本も数冊も出ています(元になったブログはこちら→ まこという名の不思議顔の猫 )。
今回の付録本は、そんなまこちゃんの最新本!
……なのですが、発売と時期を同じくして悲しい出来事が……。詳細は上記ブログをご参照ください。

絵本は5分ぐらいで読めるごく短いもので、文庫本サイズの薄さながら、しっかりした表紙に全ページフルカラーです。
タイトルは『まこの1日』。
表紙カバーを取った本体のところも可愛らしいつくりになっていて、ほんわかした気分になりました。
ブログとはまた違ったテイストです。同じ内容ではないので楽しめるのでは。

文庫本サイズのブックカバーはしっかりした作りで手になじみやすく、使いやすいです。
まこちゃんの写真入りですが、本をテーマにした割合落ち着いた感じの色合いのため、電車の中などで人に見られても恥ずかしくなることはなさそうです。

ペンケース、ボールペンも同じく写真入りですが、ファンシーグッズのような感じなので(まこちゃんの写真がいっぱい)、ビジネスの場面では向かないかも。学校や個人的な場面にどうぞ。
ペンケースのMAKOタグがとっても可愛くて好きです。クッションみたいに厚みがあって、しっかりしているところもポイント。難点は全体の色が白っぽいので、汚れが目立ちやすいところでしょうか。
付箋はごく小さな一言サイズ。猫好きの人にメモを残す時に使うのにぴったり!(もしくは自分用?)

これだけ入って税込で2000円(うろ覚え)は安いと感じました。
まこちゃんファンの方や猫好きの方には特にオススメ。
付録本は店頭から姿を消すのが割と早い気がします。見かけたらぜひお早めにどうぞ。
★切手女子のかわいい収集BOOK (ばばちえ)
JUGEMテーマ:JUGEM
趣味は切手蒐集、なんていうと、ちょっと古臭いおじさんみたいでしょうか。
切手集めに興味があるけれど、入門書はどれも古かったり文章が固かったり小難しかったりで、どうも読みにくい。
そんな方にぴったりのやさしくて柔らかめな入門書です。

薄くて1時間ぐらいですぐ読めてしまうのですが、なかなかどうして内容はきちんとしています。
どこかのライターが適当に書いたわけではなく、著者はれっきとした切手マニアの女性です。

以下、簡単に内容を。

・切手を買える店(実店舗・ネット):
有名どころの店が写真つきで紹介されていて、お店の特徴(外国/日本など)や店主の紹介もあり、はじめて訪れる前の情報収集にぴったり。海外ネットショップの紹介もあり、買い方や何日ぐらいで切手が届くかの説明は心強いです。スタンプショウ・JAPEXも豊富な写真つきで紹介されています。

・切手の扱い方・保管方法:
切手のはがし方、ピンセットやルーペといった基本的なグッズの説明、ストックブックなどの代表的保管方法、専門用語の解説、切手カタログの紹介。
なかでも競争展については、作者が実際に出品するまでの過程を写真つきで詳しくレポートしており、興味深く読みました。

・切手の遊び方:
FDC、MC、風景印といった楽しみ方についての紹介。京都風景印散歩のコーナーでは京都のいくつかの郵便局とそれぞれの風景印(消印)がカラーで紹介されていて、こんな旅行の楽しみ方もあるのかと楽しい気分になりました。
その他、パリやタイの切手屋さん・切手展めぐりの様子もカラーで結構なページを割いての紹介があり、海外なので敷居は高めですがレポートを読むだけでも楽しめます。

・かわいい切手の紹介:
なんといってもこの本の魅力はこのページにあるのではないでしょうか。カラーで多くのページを割いてテーマごとに切手の紹介がされており、眺めているだけで時を忘れてしまいそうです。あくまで「かわいい」がテーマのためか、珍しい切手を集めたというより見ていて楽しい切手の紹介という感じ。説明文はほとんどなく、純粋に見て楽しむことに主眼を置いたページ構成です。
ハートの切手やバカンスの切手など、自分では思いつかなかったテーマの紹介にはっとさせられました。


海外レポートや店の紹介など、著者が実感をこめて自分の言葉で書いていることがよく伝わる文章です。
1冊1,000円とお手軽だし、切手に興味があるなら読んで損はないと思います。
かわいさあふれるつくりですが、内容は基本的なことですので、男性の方もぜひ。
★電気サーカス (唐辺葉介)
唐辺葉介
アスキー・メディアワークス
(2013-11-21)

JUGEMテーマ:読書
cakesというサイトで連載されていた長編小説(リンク先は『電気サーカス』紹介ページ)。
サイトの方では有料ですが番外編も読めるようです。

まだインターネットが今ほど普及していない、一部の人だけが23時からのテレホーダイを心待ちにしていた時代。
主人公の水屋口は日記系テキストサイトを運営している青年で、
育った家庭が崩壊したことをきっかけに大学を辞め、テキスト系サイトやら音楽やらの創作活動をしているネット上の知り合い達とアパートで共同生活をはじめる。
といってもそれは創作意欲に満ちた明るいルームシェアではない。酒・煙草・合法ドラッグ・無気力な退廃に塗れた後ろ暗い日々の連続だ。
やがてオフ会で真赤と名乗る中学生の少女と知り合い、彼女を共同生活の輪に加えたことをきっかけに、彼らの人生は様々に流転しはじめ――といったストーリー。


ダイアルアップ接続、テレホーダイ、ICQ、HTML、タグ打ち、テキスト系サイト、オフ会。
そんな単語にぐっとくる方、たぶんストライクです。
私はテレホーダイの最後ぐらいからネットを開始したので、小説の時代より数年後ではあるのですが、
同じようにテキスト系サイトを運営していたこともあり、とてもとても、痛い小説でした。
あの頃はテキスト系サイトの全盛時代でした。
数年後にはブログが広がり、タグ打ち職人の時代はあっという間に終焉を迎えたわけですが、
あの数年はテキスト系の住人達にとって何か特別な時代でした。
あの頃サイトを運営していた方々はみんなどこへ行ってしまったのでしょう?気づけばあっという間にいなくなってしまいました。
当時属していたテキスト系コミュニティの住人で今も続けている人を、私はほんの数人しか知りません。

小説を構成する他の要素。恋愛、セックス、リストカット、自殺未遂、いわゆるボダ(かまってちゃん)、酒、煙草、合法ドラッグ、無職、ニート、退廃、ルームシェア。
これらの背後にある薄暗さは、たぶん時代に関係なく、昔から形を変えてずっと存在するものです。
この小説を一言で表すなら、こうした普遍の要素に上記の特別な時代感を組み合わせて書かれた青春小説といったところでしょうか。

あまりの描写の濃さと長さに始終クラクラし、おまけに自分の経験とかなり重なる部分もあったので余計に苦しく、読んでいる間は主人公同様に鬱々とした日々を送りました。
どうして自分のことを書いた小説が世に出ているのだろうと訝しんだ程でした。
小説というより私小説に近いのではないかしら。オフ会の様子といい、真赤の繰り返す突飛な行動といい、リアルで胸に迫るものがありました。
それだけに最後のあっけなさには少々驚きましたが、悪くない読後感です。
テキスト界隈の賑わいはあっという間に消えました。
主人公の乱痴気騒ぎに満ちた青春もまたあっという間に終わり、現実という圧倒的な社会の中に否応なしに取り込まれてゆくのです。
それでよいのです。

青春小説という言葉で括るとあまりに陳腐すぎますが、
ですが大人になるということはなんという痛みを伴う行為でしょう。

あと数年もすれば、この小説と同じテーマを形を変えて書く人が現れるのかもしれません。
そこではテキスト系サイト管理人という言葉の代わりに、プロ生主とか、あるいは歌い手とか、そんな言葉が使われるのでしょう。
けれど、たとえ言葉は置き換わっても、テーマは永遠に変わらないだろうと思います。
いつもいつの時代も、それこそきっと百年前も百年後もずっと。
人生の中でほんの数年の持つ圧倒的な輝きと、その後ろにある大きな大きなブラックホール。
ひとは心に抱えた大きな暗闇の縁をやっとふらふら渡りきって、社会に出て行くのでしょう。
そうしていつか、かつて渡りきったブラックホールの存在を忘れると同時に、輝きも無くてしまうのです。
続きを読む >>
近況報告
JUGEMテーマ:読書

気がつけばあっという間に1年経ってしまったことに驚いています。
気づかない間にコメントもいただいていました。返信をするタイミングをすっかり失ってしまいました。本当にすみません。

この1年で変わったことは何もないのですが、
2年ほど前から小説書きを再開しました。
元々このサイトは高校生だった頃に、自作の小説だの読書感想文だのを置くためにはじめたものです。
その後浪人をきっかけにサイトの更新を停止し、大学生になってからは読書感想文だけを時流に乗ってブログに移し(ちょうどブログが世に広まり始めた頃でした)、今に至る感じです。
社会人になって落ち着いてきて、また元の感じで小説を書こうかなあと。まあそんな感じです。
2年かけて、賞に応募して落選した作品とか、どこにも出していない掌編とか、いくつかたまってきたので
そのうちまた小説サイトに戻そうかと思っています。
まあ、こうしてブログを1年も放ったらかすような人間ですので、実現するかはわかりませんが。

絵空事はともかく。
このブログじたいは、どんなに更新が止まったとしても、それこそ生きている間はずっと続けるつもりです。
更新頻度は相変わらず低いと思いますが、思い出した時にでも覗いていただけると嬉しいです。

以上、近況報告でした。
★真昼なのに昏い部屋 (江國香織)
JUGEMテーマ:読書
 第5回中央公論文芸賞受賞作。不倫を扱った小説です。

美弥子さんは、都内の高級住宅街にある大きな家に暮らす、専業主婦。
「自分がきちんとしていると思えることが好き」で、毎日の日課――掃除や、夫の浩さんが脱ぎ散らかした衣服の片付けや、鉢植えに水をやること――に安心感と喜びを見出す女性です。
彼女は来客がある時でもお喋りしながら編み物や刺繍に精を出します。「何か」していることが好きなのです。

そんな美弥子さんは、近くに住むアメリカ人のジョーンズさんと出会い、ある日一緒にフィールドワーク(散歩)に出かけます。
その日から、ふたりはお互いを意識し合うようになり、やがて「きちんとした」美弥子さんの世界は少しずつ変わりはじめます。



最後の1ページに全てが込められていました。

本書はですます調だし、「美弥子さん」「ジョーンズさん」のように登場人物をさん付けで描いているし、物語の進行もはじめはごくゆっくりとしているので、
童話の世界のような、きらきらとしてどこか現実感のない時間が流れるのですが、
合間に挟まれる夫の浩さんとの会話や、美弥子さんの心理描写で、少しずつ現実に引き戻され、しまいに一気に激流に突き落とされました。
にくい演出です。

以下、好きな部分をいくつか列挙します。
私、世界の外へでちゃったんだわ。 (p.169)
「その、つまり僕は、ずっと以前から世界の外にでていますから」 (p.175)
「僕たちは似たもの同士ですね」
と、ジョーンズさんは言いました。
「事実に安心できる人間もいれば、事実に打ちのめされてしまう人間もいますから」 (p.184)
あっというまに転落してしまった。美弥子さんは思いました。
転落?
(中略)私は転落したのかしら。でも、どこから? (p.213)
どの文章もとても平易で、ふわふわとしているのに、本質を真正面からきちんと捉えています。
こんな文章が、きらきらした不倫世界の合間に挟まれているのです。その度にどきりとするわけです。
最近の江國香織さんの作品の中では、かなり好きかもしれません。


美弥子さんと浩さんの全くかみ合わないやり取りも、本書の魅力のひとつです。
ふたりが結婚に至ったまでの説明や、浩さんの心理描写はごく少ないのですが、
短い中に全てが込められていて、滑稽なまでに悲しい描写です。
浩さんと結婚して、美弥子さんは幸せだったのでしょうか。ジョーンズさんと出会うまで、彼女はすれ違うことが当たり前なのだと思っていました。
ですが世界の外に出てしまった今、美弥子さんは浩さんとの関係性にはじめて向き合うこととなります。
気づかない幸せと、気づく幸せ。果たしてどちらが幸せなのでしょうか。


籠の小鳥が可愛らしいのは籠の中にいるからです。
外に飛び出してしまった小鳥は、たちまちただの野鳥になってしまうのです。
読み終えてふと、そんなことを、思いました。
ビアンカ・オーバースタディ (筒井康隆)
JUGEMテーマ:読書
 ”あの”筒井康隆が、ラノベに参戦。しかもイラストは”あの”いとうのいぢ。

ビアンカ北町は高校の男子生徒誰もが憧れる超絶美少女。生物研究部の一員である彼女は、放課後になると毎日怪しい研究を繰り返す。
彼女の実験に、文芸部の頼りない後輩男子やクラスメイトのヤンキー系美女、ビアンカのうぶで可愛い妹、さらには”未来人”までが巻き込まれて――。



帯の言葉通り、「2010年代の『時をかける少女』」でした。
2010年代ある意味最強の2人がタッグを組んで送るライトノベル、直球勝負の作品です。
わかりやすくキャラの立った登場人物、簡潔で無駄のないストーリー展開、適度に口語で読みやすい文体。
ライトノベルの書き方で『時かけ』を書き直すとこうなりました! という感じでしょうか。
それも作者自身が書いたオマージュ作品なわけで、作者のファンならずとも楽しめると思います(なので、『時かけ』を読んでからこちらの小説を読んだ方がニヤニヤできます)。
往年の作者ファンの中には、もしかしたらこの小説ではじめてラノベに触れる方もいるのかしら。お色気たっぷりの内容・イラストなので、気絶しないといいのですが……。

『時かけ』の、淡くて甘酸っぱくて爽やかな読後感もいいですが、こちらのちょっと刺激的でドタバタな「新・時かけ」もまた、全く違う色合いの作品に仕上がっていて今風で私は好きです。

それにしても筒井康隆氏、この歳で新たなジャンル開拓、それもきっちりラノベの王道を押さえてくるとは、さすがです。
続きが出れば読みたいけれど、でも「新・時かけ」としてこれで完結した方が綺麗にまとまる気もするし、悩ましいところです。


カラーイラストも豊富だし、すぐに読み終えられる長さだし、日曜の午後に日なたに寝そべって読むにはぴったりかも。
逆に満員電車で読むのはオススメできません。イラストはともかく、内容が一部、たいそう刺激的なので……(章題に全て「スペルマ」の文字が含まれている、と書けば何となくわかるかしら)。
読み始めた頃は目玉が飛び出るかと思いました。もしかして官能小説だったのかと疑ったくらいです。

かつての『時かけ』ファンと、新時代の『時かけ』ファンへ。
気楽に読めて、でも実は色々と凝りに凝りまくっている作品です。編集者、気合い充分です。
★桐島、部活やめるってよ (朝井リョウ)
JUGEMテーマ:読書
 第二十二回小説すばる新人賞受賞作。
作者はその後『何者』で直木賞を受賞しています。

県立高校バレー部のキャプテン・桐島が、ある日突然部活を辞めたという。理由は誰も知らない。
その日を境に、バレー部のメンバーや桐島と仲の良かった子たち、さらに同じ学年の桐島とは無関係だった面々にまで、小さなさざ波が起こって――。



映画版は観ていないので、純粋に小説の感想を。

物語のキーパーソンは桐島のはずなのに、本文中に彼は全く登場しない。なかなかニクイ構成です。
一つの高校を舞台にした長編小説ではありますが、桐島を取り巻く五人の高校生それぞれを章立てて追った、連作短編集でもあります。

どの章が、誰の話が、というより、全部の話が、痛い。
自分も高校生の頃、似たようなことを考えていたし、クラスに同じようなタイプの子がいたっけ――と、リアルにまざまざと思い出して、自分の経験と登場人物の心情を重ねて、苦しみながら読みました。

中学・高校の頃って、外見とか、運動神経の良さとか、何部に入っているかとかがとても重要で、
それによってクラスの中での立ち位置やグループも決まっていたように思います。

 自分は誰より「上」で、誰より「下」で、っていうのは、クラスに入った瞬間になぜだかわかる。僕は映画部に入ったとき、武文と「同じ」だと感じた。そして僕らはまとめて「下」なのだと、誰に言われるでもなく察した。 (p.91)

この部分なんかはまさに、全面的にその通りです。
大人になって学校生活を抜け出した今となっては、あの感覚は一体何だったんだろうと不思議だし、そんなことで決められたランクなんか本当は重要じゃなかったんだって思うけれど、
中高生だったあの頃は、自分がどの層に属しているかはとても大切なことでした。

私自身は下の方のランクにいた部類だったので、映画部の涼也の話がいちばん自分のことのように感じられました。
この文庫版には、涼也と関係のある、東原かすみの話も収録されているのですが、それがまたいい味を出しています。
中学時代の話ですが、他人の言動にすぐに影響されたり、ささいなことで友だちを仲間外れにしたり、「あるある!」と頷きたくなる話です。
涼也との話も、いい感じにまとめられています。


ランク付けという部分でひとつ難点を挙げれば、小説はあっさりした「上」と「下」だけのランク付けでしたが、本当はもっと複雑だと思います。
映画部とかブラバンあたりは「下」というより「中」ぐらいなんじゃないでしょうか。
本当はその下の立場もあったよなあ、と思うのは自分だけでしょうか。
何にせよ、大人になってしまえば意味のない分類ではありますが。



痛い感覚を痛いまま描いている、等身大の小説でした。
よくも悪くも話し言葉そのままで書かれていて、最初は違和感を感じましたが、心情描写としてはむしろこの書き方の方が合っているかもしれません。
作者が今後社会に出て、大人を主人公にした小説を書くことがあったら、どんな風に等身大に描くのか(あるいは全く違う視点で描くのか)、とても楽しみです。
同世代にオススメしたくなる一冊。

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.